一日前、午前

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 和道部は茶道部、華道部、書道部を合わせたもので叶さんが部長を努めているが、この部ばかりは叶さんの自由にならないそうだ。  曰く、部を存続させたければ入部を断らない事。  何故、何の為に部の存続を望むのかはわからないが、彼にとってもっとも過酷な部活である事は間違い無いだろう。  口は悪くとも、顔が同じでも、彼ら三人の中では叶さんが一番女子に人気がある。その為、部員数は五十人以上いるが、男子は叶さん一人だけだ。  普通の男子でも辛い状況だろうが、叶さんの女性恐怖症はかなり重症らしい。  一般部員であればともかく、部長であれば指導しなければならないわけだから、喋らないわけにも無視するわけにもいかない。  その上女子の熱い視線を部活の間中受け続けていなければいけないのだからかなりの苦痛だろう。 「仕方ねぇ、山に放すか」  叶さんが小さく息を吐き呟いた。 「危なくないですか?熊とか猪が出るって噂ですよ?」  そういえば、ふと思い立った。  小動物や子熊、瓜坊は見た事はあっても、その親を見た事が無いように思う。  子供のうちだけここにいるなんて事は無いだろう。  一体何故なのか、それが気に掛っていた。 「なんだ、知らないのか?」  叶さんが乱れた髪に指を通しながら俺に目を向けた。 「ここの動物はみんな黒魔術結社が作った人工生命体なんだぞ?」 「ええ?嘘だぁ?」 「嘘だよ、お前は可愛いな」  こんな事で可愛いとか言われてもまったく嬉しくないが。  しかし叶さんにしては珍しく楽しそうに笑っているので嫌な気はしなかった。 「これさ、いつか誰かに言ってみたかったんだ」 「黒魔術結社を?なんでです?」 「特に理由はねぇよ。お前みたいに信じて驚いてくれたらいいなって思っただけだ」  叶さんが、まるで子供にするように俺の頭を撫でる。  もしも他の人にされたら怒っていた所だろうが、相手が叶さんだからなのか、かえって嬉しいような、照れ臭いような気がした。 「冗談はさておき、もう少し飼い主探してみるよ」  あぁ、そこから冗談だったのか。  もはやどこからつっこむべきかわからなかったが、どうやらその必要は無いようだった。 「楽しそうね。碑乃村くん」  いつの間にか叶さんの後ろに来た人物が、彼の肩を叩いて微笑んだ。
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