一日前、午前

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「うるせぇ。だから嫌なんだよ」 口に出すと怒られそうなので俺は言わないが、確かに似合っていた。眼鏡を掛けるとなんだか雰囲気が柔らかくなったような気がするし、優等生っぽくみえる。 実際優等生なのだが、普段は目付きと口とガラの悪さからヤンキーのようにみえるのだ。 「いいじゃない私その方が好きよ」 木暮先生が何の照れも無く好きだと言う。 これは俺の偏見かも知れないが、女の人は無闇に自分から好きだとか言ったりしないものだと思っていた。 それに教師が下手な事を言って、誤解を受けたらどうするというのか。まぁこの人の場合そんな心配は不要だろうが。 「はぁ?何言ってんだお前馬鹿じゃねぇの」 だから叶さんも、その好きが額面通りの好きではないとわかるのだろう。まったく照れが無く、本気だとは捉えたりはしない。 「似合うじゃない、その、パステルグリーン?うん。私的には碑乃村くんのイメージカラーだな」 言われて見れば、叶さんの持ち前のほとんどが同じ色だったように思う。 同じように、木陰さんも火爪さんも色の好みが極端だった。 木陰さんは金色、火爪さんは原色の赤の持ち物ばかりだ。 「あってるわよね、碑乃村くんに。優しい色で、暖かみがあって」 確かに。見た目だけで判断すればミスマッチかもしれないが、中身を知っている人であればそうは思わないだろう。 「嘘だなそれは。確かに好きな色だけど俺にあってない事は俺が一番理解して」 「理解してないわよね?」 木暮先生が屈託の無い笑みを俺に向ける。 部活の後輩として、最低限叶さんの事は知っているつもりだった。優しい所や、友情に篤い所も、涙脆い所も。 「あ、はい。そうですね。俺も叶さんにはその色があってると思います」 「ほらぁ、君たち自分を過小評価しすぎなのよ」 君たちというのが誰を指すのかわからないが、木暮先生の言う通りだった。 「それは……ねぇだろ」 「あ、照れた」 「照れましたね」 「あぁ?誰が、何?」 「ごめんなさい」 叶さんの三白眼に睨まれて木暮先生と二人して縮こまる。 色素の薄い髪と色白の肌、切長の瞳と顔立ちが整っているせいか、叶さんに睨まれると本当に怖い。よくヤンキーに間違われるが、それも理解できるような気もする。 三人でまたコンタクト探しを再開する。 「断らないんですね」 「あ?何が」 「眼鏡。嫌だったんじゃないですか?」 「別に断る事でもねぇだろ」
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