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それは確かにそうかもしれないが、叶さんは少し優しすぎるのではないかと思った。
断る理由が無いから。大抵の事はそれで飲み込んでしまう所がある。
「ところで、前から言おうと思ってたんだけど、碑乃村くん先生の事お前とか馬鹿とか言うの、よくないわよ」
木暮先生は本当に気まぐれで、よく自分の都合でころころ話を変える。
「安心しろ。お前にしか言った事ねぇから」
態とらしく溜め息を吐きながら叶さんが言う。相手をするのが面倒なのだろうか。
「あらそう。それならいいけど」
木暮先生はそんな叶さんの態度など意に介さないのか、特に気にする素振りも見せなかった。
「いいんですか?」
「いいわよ。他の先生方に迷惑掛けなきゃ」
そのあたりはおおらかなのか大雑把なのか、はたまた鈍感なだけなのか。どれが正解かは敢えて言わないが。
それからしばらく三人で話をしながらコンタクトを探していた。普段、部活中に見る叶さんとは違ってよく喋っていた。木暮先生と話すのはかなり面倒そうにしていたが。
「お前はよく教員試験受かったな」
「偉い?褒め称えてもいいのよ」
「なんでだよ馬鹿」
木暮先生としてはボケてるつもりはないのだろうが叶さんの性格なのか、日頃の人間関係のせいなのか、つっこまずにはいられないようだ。
「あの……ありましたよ、コンタクト」
本当は二、三分前に見つけていたのだが、二人の会話に入りづらかった。
「あら悪いわね菱荻くん」
「サンキュ菱荻」
何事もなかったように二人が俺に笑みを向ける。仲が良いんだか悪いんだか、叶さんが触れられる数少ない女性だから悪くはないのだろうが。
「あ、今日碑乃村くんち泊まるけど、いい?」
木暮先生が膝についた砂を払いながら尋ねた。
正直、泊まる程の仲だとは知らず驚いた。
「構わねぇけど、姉貴いねぇぞ?」
いつの間にか叶さんが眼鏡を外していた。
珍しいのでちょっともったいないと思った。
「いいのよ、あなたのご飯食べに行くんだから」
「はぁ」
叶さん自体、眼鏡を掛け慣れていないのだろうか、目頭を押さえている。
「木暮先生、叶さんのお姉さんと仲いいんですか?」
「うん。飲み仲間なのよ。詳しい事は省くけれど、私こう見えてお酒強いの」
それは確かに意外だった。人は見た目によらないとは言うが、彼女の小学生並の容姿からは想像がつかなかった。
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