一日前、午前

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「お前が強いんじゃねぇよ、他が弱すぎなんだよ」 「いいじゃない別に。高井先生すぐ泣くから優位に立った気がして気分いいの」 一瞬聞き捨てならない名前が聞こえた気がした。 高井先生って、まさかあの高井先生じゃないだろう。 「それ、どこの高井先生ですか?」 「お前の知ってる高井先生だよ。あの人酒弱いんだ」 なんとなく、まさか違うだろうな、という気持ちで聞いてみた。当たるとは思わなかった。 「嘘でしょ?だって普段あれだけ怖い人なのに」 高井鈴菜(たかいすずな)先生は皇さんの実の父親だ。名字が違うし、年だって詳しくは知らないけれど、制服を着れば高校生で通せそうなほど、かなり若そうに見える。 かなりのヘビースモーカーで、授業中でも関係なく煙草を吸っている、髪の色も目に痛いほどの金色。 どこから見ても不良教師だが、そこはさすがに皇さんの父親ということなのか、女子生徒からの人気はかなり高い。 「それって人に言ってもいいんですか?」 「……聞かなかった事にしてちょうだい」 高井先生の弱みを握ったとなればどうなるかわからない。木暮先生が高井先生に怒られている構図は日常茶飯事だが、いい加減何をすれば怒られるかぐらい覚えてもよさそうなものだが。 「菱荻、付き合わせて悪かったな。何か用事があったんじゃないのか?」 「いや、教室に忘れ物取りに行くだけですから」 「昼飯は?寮で?」 言われて腕時計を見るとお昼時だった。 ところで、何か忘れている気がする。何だったか。
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