一日前、午前

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 確かに今年は異常気象とも言うべき暑さだった。 「あれかな?地球温暖化ってヤツかな?」  喋りながらも、雪比良は制服をハンガーから外して俺に投げて寄越した。 「大分前には百年後には平均気温が三度上がるとか言われてたけど、夏は猛暑で冬は暖冬、地球が滅亡するのもそう遠くない未来かもね」  雪比良は時々、こうして訳のわからない事を言う。  映画か何かの受け売りだろうが、決して彼が頭がいいという訳ではない。  寧ろ悪い方だ。 「……とにかく、夏休みに学校行くなんてさ、日本の教育は間違ってるよな」  雪比良の目が、まるで別の世界を見ていた。 「補習なんて受けるからだ馬鹿」  ワイシャツの袖に腕を通して溜め息を吐く。 「あのさ、好きで補習なんか受けるのは凛ぐらいだよ」  凛というのは同じクラスの新島凛寧(にいじまりんねい)の事で、試験当日に保健室で爆睡する強者だ。  普通の中三男子なら確実に怒られるであろう所を、彼はいとも簡単に釈放された。  ちょっと泣いてみたら、逆に先生が泣いて謝ってきたそうだ。  小悪魔め。 「……可愛いと得だよなぁ」  それでも何故か、凛寧は補習を受けるらしい。 「なんであいつ、わざわざ補習受けるんだろうな?」  雪比良の言う事はもっともで、凛寧の学力は学年トップだ。  補習は免除になっているのだからわざわざ受ける必要はない。 「案外…皆でいる時間増やす為かもな…」  ぼそりと雪比良が呟く。 「え?なんだって?」  その言葉はその時の俺には理解出来なかった。
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