入国

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 僕は、鍵を少年に投げた。  少年は、それをキャッチすると空中にかざす。 「差され!クソッ!早く、早く!差され畜生!」  まるで、空気に鍵を差し込もうとしている様だ。 「何やってんの?いい先生紹介しようか?」 「お前、死にてぇのか?」  顔だけを僕に向け、睨み付けて来る。 「で、どうするんだ?これから」  転がる死体。  それの犯人。  何も無い所で、空気とじゃれる白髪の少年。  何も知らない人に見られたら、警察呼ばれるだろうな……。 「今、忙しいんだよ!取りあえず、そいつから離れた方がいいぞ」 「は?」  死体から?離れて、どうするんだろう。 「いやいや、久し振りだよ。この感じ」 「…………」  男は、ゆっくりと起き上がった。 「殺されたのは何日ぶりかな」  何だ、これ?  生きてるのに、殺されたって言うのか?それに、何日ぶりって、今夜のおかず感覚でいいのか? 「大丈夫か、この状況。そして、アレは何だ?」  僕は、少年に駆け寄った。 「何度も言わすな!ダイヤのジャックだ」 男は、自分の心臓に刺さったナイフを引き抜く。 それに、血は、着いていない。 「……なんだよ、あれ」 「クソクソクソ!開け!」  少年は、まだ空気と格闘している。  本当にマズイぞ。 「何やって――」  言い切る前に、男が動いた。 「GAME OVER」  きらめくナイフの一閃が、真っ直ぐに向かって来る。  逃げなきゃいけない。それは、わかる。  何処へだ? 「開いたぜっ!」  少年が叫んだ。 「死にたくなかったら、俺の後に続け!」  そう言うと、空気に飛び込んだ。空中を透り抜けて、少年の姿が消える。 「……何が、どうなってる?」  考える時間が、今の僕には存在しない。僕は、少年を追い掛け、空中に飛び込んだ。僕が、ここに居た形跡、穴の空いた鞄を残して。
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