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僕は、目を覚ます。
「まるで、嘘だな」
自分に言い聞かせるように言って、僕は体を起こした。布団を畳み、顔を洗い、服を着替える、という毎日の動作を繰り返す。
朝食は、何にしようか? などと考えながら、冷蔵庫を開いた。
空の冷蔵庫を見て、何も買い込んでいない事を思い出す。
時計を見ると、十時を回っていた。
完全に寝過ごした。
まあ、普段から規則正しい生活など営んではいない訳だけれど……。少し、自分が嫌になる。
僕は、あくまでゆっくりと支度をするとアパートを出た。アパートの前に、女性が一人立っている。
こんな時間帯に、何をしているのだろうか?
「やっ、おはよう」
「おはようございます。彩美さん」
僕は、小さく会釈した。
「おはようって、君さ……もう、十時過ぎてるよ? 健康的じゃないし、恥ずかしくない?」
厳しい言葉を貰ってしまった。
そんな物言いが、この人のいい所なのかもしれないけれど。
「申し訳ないです」
「こんなに遅くて、大丈夫なのか、君は?」
「ええ、まあ、何とか。授業は、午後からなんで……。彩美さんこそ、仕事は、どうしたんですか?」
「いや、その――クビになった」
目線を逸らしながら、彩美さんが小さく呟く。
「また――ですか?」
「いや、申し訳ないです」
「謝罪は、いいですよ」
「まあ、何とかなるさ」
彩美は、いつもの覇気が感じられない声で言った。
「だと……いいですね」
確か、一ヶ月前に再就職したばかりじゃなかったか?
いつも、しっかりと再就職できる事は評価に値するが、どうして何度もクビになれるのだろう。まあ、想像に難くはないが……。
どこか、心配になる。
「安定した生活しましょうよ」
「君に言われると、凹むねえ」
彩美さんが、苦笑した。
それから、一通り話を終えると、僕は大学に向かって歩きだした。
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