57人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
Sと別れて家に着くと無性に冷たい水が飲みたくなった。氷をいっぱい入れてうんと冷たい水を飲もう…
ものすごく喉が乾いていた。一杯飲みほし、もう一杯の半分を飲んだらやっと喉の渇きがとれた。
それからあれこれ考えているうちに、ぼぅっとしてたらしい。気がついたら時計の針は40分ほど進んでいた。
(もう…こんな時間?)時計を眺めながらまたぼぅっとなりそうなのが自分でわかる。
次はなにか温かいものを飲んで眠ってしまおうか…。
カモミールティがいい。
そう思ってキッチンに向かうと食べ頃になるまで待っていたアボガドの深緑色が目に留まる。
不意に、Sはアボガドに似ているなと思った。
あのなんとも微妙な味わいも、脇役のようでしっかり存在感があるところも、まったりしてるようでさっぱりしているところも、毎日は食べなくても気になるもの、なのも…
この皮は一見、固いようだが拍子抜けするほど簡単に爪と手でも剥けてしまう。
食べ頃になるのを待っていたあのアボガドを剥いてみた。
(…少し遅かったみたい。)
食べ頃を過ぎてしまったようだ。少し柔らか過ぎる…。無理をすれば食べれないこともないけど…。
『…どうして?こんなによく食べてるのにわたしってわからないの?開けてみないとわからないの?』
声に出してそう言っていた。
たかがアボガドのことでどうして涙が出るんだろう…。
Sの話しがそんなにショックだったのか。
あのときは一時間したら普通に接することができたではないか。
わたしはSを好きだったの?
わたしは一体なにを期待していたのだろう。
自分のことなのに誰かに教えてもらいたかった。
次に、アボガドを買ったときは少し固いうちに食べてしまおう。
次は食べ頃を逃したりは絶対にしない。
そう誓った。
最初のコメントを投稿しよう!