…種

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あんまりさらっというので冗談だろうと、わたしは軽く流した。 だけど、なんとなくその言葉は心の真ん中のずぅっと奥のほうに残っていた。 Sは覚えているだろうか… ほうっと暖かく、優しくゆずの香りが広がる茶わん蒸しを食べ終える頃、ふいにSが話し始めた。 『俺さ…好きな子、いたんだけどダメだったわ』 ゆずの茶わん蒸しは本当においしかった。 だけどその一瞬だけはまだ口の中にあったゆずの残り香が消えた。 …なにも答えないわけには行かないので 適当に慰めの言葉を言ったが、なにを言ったかはよく覚えていない。 そういえば今回は連絡くれる期間がいつもよりも空いてたことを思い出した。 (そうゆう訳だったんだ…) Sは沈んだ声とは裏腹に表情はそんなに落ち込んでいない様子だった。 なのでそれから一時間もたてばわたしは普通に戻り普通に話しをした。 さほどショックを受けていない自分に対して妙にうれしく思えた。
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