鮮やかな紅(くれない)

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はっ…。 はっ…。 はっ…。 はぁぁ…。 悔しいな…。こんなに…体力がなかった…なんて…。 駅前まで…1kmもない…のに…。 酸欠でフラフラな脚を引きずりながら、それでも駐輪場にたどり着いた。 あれ? 誰もいない…。 しずまり返って人の気配は感じられない。 意気込んで走ってきたから、拍子抜けしてその場に座り込んでしまった。 「新汰ぁ!新汰ぁ…!」 息を整えて、かすれた声で呼びかけてみる。 やっぱり返事はなかった。 とりあえずココにいないなら、赤澤の魔の手から逃れたに違いない。 そうだよ。 新汰だってバカじゃないから、スキをみて逃げたに違いないよね? スカートに付いたホコリを払いながらヨロヨロと立ち上がると、辺りを見回しながら歩き始めた。 やっぱり、いつもと同じ静かな駐輪場だ。 ホッとして男子トイレの前を通り過ぎようとしたら、ドアの奥から嗚咽が聞こえてきた。 「うぅぅ…。」 ボクがその声を聞き違えるハズがない。 「あっ…!新汰ぁ!?」 あわててドアを開けると、便器と仕切りの間の僅かな床に隠れるみたいに座り込む新汰を見つけた。 うなだれている頭を両手で支えて覗くと、天使みたいに綺麗だった顔は涙と鼻血でグシャグシャになってた。 新品だった制服はボロボロに引き裂かれてる。 誰の仕業か聞かなくても分かった。 今まで感じた事のない怒りが全身を震わせる。 「うぁ…うぅ。」 さっきから聞き取れないぐらいの小声で、新汰が呟いてる。 「新汰?大丈夫?!おまわりさんを呼んでくるね?」 とにかく、このままにして置けない。 立ち上がろうとするボクの手首を、びっくりするくらい強い掌が掴んだ。 「ダ、ダメ…。」 「新汰?」 よく見ると、真っ白なシャツの胸元辺りが赤黒い染みで染まってる。 「サシタ…。」 「え?」 その言葉の意味が、しばらく理解できなかった。 「刺した…。」 ボクが全てを悟ったのは、隅に転がって鈍い光を放っているナイフを見つけた時だった。
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