ー虐待と小さな抵抗ー ひろし少年の決意

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太郎は、妻と幼い命(性別不明)を、よりにもよって自分の最も信頼してた元上司・現服役囚に奪われた事件の悪夢を毎晩のようにみて魘(うな)されていた。 そんな夢ばかりみて寝不足な太郎が、日雇い仕事に行ってもミスばかりおこすのも当然の話しで、あっちに行っては辞め、こっちに日雇い労働に行けば、現場先の監督と言い合い、やがては揉み合いにまで発展してしまうほどの人格の変わりようなので、どこへ行っても長続きするはずなどなく、いよいよ就職先なども見つけず、一日中家にいては酒ばかり飲んでる毎日になった。 いつしか子供たちとも大して口をきかなくなり、次第に可愛がる事もなくなっていった。 当然そんなその日暮らしだから残ってる住宅ローンも払えず、三階一戸建て住宅も差し押さえられ、高級外車や金目の物なども差し押さえの対象となり、ついには都内の安アパートに引っ越す羽目となった。 しかし、都内の安アパートに引っ越してからは、今まで酒は飲んでも愛する子供たちに手をあげなかった父親は、いつしか子供に手をあげてしまったのである。 太郎も始めのうちは、息子のひろしを小突く程度であったが、しまいには、ひろしを殴る、蹴るまでしていた。 アパートに越してから二年と四ヵ月の月日が経った。 太郎は相変わらず酒ばかり飲む生活で、たまにふらふら~っとどこかへ出かけては、はした金を稼ぎに行ってる程度である。その稼ぎもほとんど自分の酒代に消え、自分はおろか、子どもたちでさえも一日に何も口にしないことも多々あった。 毎日酒ばかり飲んでいる太郎は、やり場のない怒りからか、学校を休みがちになった息子のひろしに虐待を繰り返していた。 エスカレートした時には、まだ年端もいかない娘のはなにまで手をかけようとしたのだから、いよいよどうしようもない。 それでも息子のひろしは、父の太郎の事がまだ好きでいくら殴られても蹴られても反抗どころか、涙もみせずにただただひたすら耐えていた。 しかし、太郎がはなにも手をかけようとしたまさにその時、ひろしは、全身の最大の力を振り絞り、立ち上がって、その小さな体で太郎を突き飛ばした。 ひろしの眼には初めて涙が溢れるほど溜まっているのが分かった。 それはそうだろう、あんなに自分に優しくて大好きだった父親を今こうして突き飛ばし、愛する妹を守ったのだから。
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