1章 出会い

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アーバス大陸東北部内陸に小規模都市アステリアがある。近隣の村や町に比べ、かなり大きく、人口も多くて賑やかな都市だ。 アステリアの中央には時計台があり、そこから東西南北に大きな道が通っている。人通りが多く、多種多様の商店がこの場所に集中している。 季節は秋。 この地方は土地的に夏は涼しく、秋から冬はかなり寒さが厳しい。そのため曇った昼過ぎの茶色い街には茶色や灰色のロングコートを着ている男性や茶色や赤褐色のガウンとロングスカートを履いた女性で溢れている。 ざわめきや石畳の道を歩く度に聞こえる足音は何気なく聞いていれば取るに足らない音だが、“少年”には耳障りで仕方なかった。 雑踏の片隅に漆黒の長髪の少年がうずくまっている。少年は漆黒の長髪の奥から虚ろな真紅の瞳で道行く人々を眺めていた。 ちょっとあの子なに? まあ孤児かしら? 気味悪いわ… あ…目が合っちゃった 少年の周りだけ、ぽっかり空いた空間がある。誰も少年に近づかないのだ。少年の着ている服は裾がボロボロに破れている。靴も履いていなく、足は傷だらけ。身体も泥や傷だらけで、食事もろくにとっていないように痩せ細った少年は見るからにみすぼらしい。 誰も少年に救いの手は差し延べない。向けられるのは嫌悪と嫌忌の視線。そして彼らはたった一人の少年を忌避している。 だが、“彼女”だけはそれらの人々と違うようだ。 「君…」 ぽっかり空いた空間に一人うずくまっていた少年に近づく茶色い買い物籠を左肘に引っ掛けている長い栗色の髪をした一人の少女。 虚ろな真紅の瞳が少女を捉える。 「私はメイ。君……お腹空いてるんじゃない?はいコレ」 メイは買い物籠からまだ温もりの残っているパンを取り出し、少年に渡した。 無表情な少年の顔に微かな変化が見えた。それは『驚き』。それに気付いたメイは素直に喜び、季節外れの春の日だまりみたいな笑顔を見せた。 「君……名前は?」 「……………ズゥ」 それが少女メイと少年ズゥの出会いだった。
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