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少年と出会う8年前。
-冬-
一人の少女が街の片隅で泣いていた。その目の前には赤く染まった二人の大人が横たわっていた。もう温もりはない。少女はその状況、その状態を知らない。知りたくもない。
少女は啜り泣きをしながら街を歩いていた。
お腹も空いた。
足が痛い。
なにより寒い。
灰色の空からは純白の『冬幻花』が降り続け、茶色い街を灰色に変える。いつもなら飛び回るくらい喜んでいるはずなのに、その時ほど『冬幻花』が憎いと思ったことはない。
そして少女は道端に倒れた。
『冬幻花』は容赦なく少女に降り積もる。
「さむいよ………ママ」
少女は目を閉じた。
ひどく眠い。
母親がいたなら、きっと『こんなところで寝たら風邪ひいちゃうわよ』と言っていただろう。しかし、その母親はこの世にいない。おんぶしてくれる父親もいない。母の温もりも父の大きな背中も失った。
いや。奪われた。
しかし、少女はそのことを知らない。知りたくもない。
冷たい石畳の道の上で少女は眠りについた。二度と目を覚まさないような深い眠りに。
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