18502人が本棚に入れています
本棚に追加
/569ページ
下野は井手口の安否も心配だったが、目の前でうずくまる男を優先させる。井手口が簡単に殺されるような男でないと確信していたからだ。
下野は席に突き刺さった包丁を引き抜くと、距離を取った場所に放り投げる。その間も男は絶叫し、苦痛に顔を歪ませる。男が頭からすっぽり羽織った黒いシーツに血が滲み出て赤黒く変わって行く。
もう男に抵抗する姿勢は見られない。下野は男を置き去りにして禁煙席まで走った。
「下野!大丈夫かよ!?」
途中、厨房から出て来た江原に声をかけられたが、今はそれどころではない。下野は江原と一瞬だけ目を合わせると、すぐに禁煙席に走る。
パン!!
銃声一発。
乾いた音がファミレスを支配する。下野と江原は、びくりと立ち止まる。
「井手....口?」
返答は無かった。
最初のコメントを投稿しよう!