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街の灯りもそろそろ消えだし、時間帯は深夜になろうとしていた。
駅前の商店街も全てシャッターが降り、人の往来も無くなった時間、真っ暗なビルの角に蠢く陰が一つ…
そして反対側、明るい駅前のロータリーのベンチには今日も酔い潰れた若者が寝ていた。
「君、君、こんな所で寝てたらダメだぞ?」
「…うん?」
突然、心地よい夢の中から引き戻された若者が声の主を見上げた。
そこに立っていたのは駅前の派出所の警察官だった。
「お巡りひゃん?」
「立てるかな?タクシー呼ぼうか?」
「あー…ここで寝ちゃったんだな、俺…」
「最近はこんな小さな駅でも置き引きなんかが出るからね。ちゃんと家で寝なさい。」
「あー…はい。」
彼の名は 秋津 新(あきつあらた)。
26才。
精密機器を造るメーカーの下請けをする町工場に勤めている。
今日も仕事帰りにちょっと寄ったつもりが、毎度の事ながらこんな時間まで飲んでしまった。
駅から歩いて15分程度の彼のアパートへ帰ろうとしてはいたものの、いつの間にかベンチで眠り込んでしまったらしい。
ダルそうに立ち上がり、警官に片手で挨拶をして部屋へ歩きだした。
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