第一章

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彼のアパートへはビルの間の細い路地を抜けて行くと近道だ。 この時間、女性の独り歩きはお薦めできないが、彼は男なのでまったく躊躇なく路地へ入って行った。 街灯もなく、薄暗い通りだが通い慣れた道なので迷う心配はない。 酔いの残る危なげな足取りで、フラフラとゆっくり歩く。 通りを中程まで歩いてくると、自身の姿も見えづらい程暗くなる。 《コツッ》 足元に何か引っ掛けた。 「うぁ!」 不意を突かれてもんどり打って倒れ込んだ。 「いたたた!なんだぁ?」 闇に慣れた目でも、この辺りは見えづらい。 目を凝らして足元をよく見ると、何やら蹲る物体がそこにはあった。 物体…いや生き物のようだ。 「なにがいるんだ?」 新がそう目を凝らし、顔を近付けた時だった。 向こうもタイミングを合わせたように、こちらを振り向く。 「うぁあぁあぁ!」 目の前数cmで相手と目と目が合ってしまった。 その目たるや、真っ赤に燃えるような色をしている。 暗闇の中で不気味に燃える目だ。 「お前に決めた…」 生物が喋った。 「!!」 あまりの驚きに新は声も出ない。
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