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彼のアパートへはビルの間の細い路地を抜けて行くと近道だ。
この時間、女性の独り歩きはお薦めできないが、彼は男なのでまったく躊躇なく路地へ入って行った。
街灯もなく、薄暗い通りだが通い慣れた道なので迷う心配はない。
酔いの残る危なげな足取りで、フラフラとゆっくり歩く。
通りを中程まで歩いてくると、自身の姿も見えづらい程暗くなる。
《コツッ》
足元に何か引っ掛けた。
「うぁ!」
不意を突かれてもんどり打って倒れ込んだ。
「いたたた!なんだぁ?」
闇に慣れた目でも、この辺りは見えづらい。
目を凝らして足元をよく見ると、何やら蹲る物体がそこにはあった。
物体…いや生き物のようだ。
「なにがいるんだ?」
新がそう目を凝らし、顔を近付けた時だった。
向こうもタイミングを合わせたように、こちらを振り向く。
「うぁあぁあぁ!」
目の前数cmで相手と目と目が合ってしまった。
その目たるや、真っ赤に燃えるような色をしている。
暗闇の中で不気味に燃える目だ。
「お前に決めた…」
生物が喋った。
「!!」
あまりの驚きに新は声も出ない。
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