第3話 気まぐれ

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「悪いね、こんなに」 俺が注文したのは、カレーにハンバーグ、ラーメン、豚の生姜焼き定食、ツナサラダあと、デザートにいちごのショートケーキ、プリン、バニラアイスといったところだ。 後悔するのはもう遅いぞ、和志。俺に慈悲の心など在るわけないだろう? 遠慮と言う文字も俺の辞書では黒く墨で塗りつぶされている。 質がダメなら量だ……ふはは、笑いが止まらん。 「お金の事なら心配するな、いっぱいあるから! しっかし、よく食うなー!」 ファミレス程度ではいくら食べようとはした金で払えると意に返さない様子の和志。 その割には和志はコーヒー一杯だけ。 金があるなら自分も何か食えばいいのに。 本当は強がっているだけなのだろか? 「今の人かっこ良くない?」 こいつと居るといつもこんな声が聞こえてくる。 店に入りなんかすると、座っている席の横を通り過ぎた女がチラチラみたり、近くの席の女の集団が視線を送りコソコソと和志の容姿について会話を始めたりする。 まる聞こえなのだからこそこそではないのかもしれないが。 そう、和志のやつは無駄にカッコイイ、イケメンというやつだ。テレビに出ている俳優やモデルなんかに引けを取らない程に。 そのお陰ですごくモテるのだが、彼女らしい人を見たことはない。 そこがなぜか不思議なところだ。 理由に心当たりがないこともないが…。 「けっ! 飯が不味くなりやがる」 「あん? どうした?」 そう言って澄まし顔でコーヒーを飲む和志。そんな普通の仕草も様になる。 そんな和志を羨むことがないこともないが、人に注目されるというのは神経をすり減らしそうなので実際はそんな容姿はごめん被る。 和志への嫉妬というより、周りで騒いでいる人間のせいでイライラする。 さっきも言ったが会話が聞こえている。その内容に結構な確立で登場し比較される人物がいる。 今、席を同じにしている俺だ。そして見目麗しいイケメンを引き立てるため謂れのない悪態をつかれ揶揄されるのだ。 「まずっ、なんだこのコーヒー」 「和志、カツ丼追加」 ここの全てのメニュー食ってやる! なんて無茶なことを思ってしまう程に暴走した食い気を嗜めることなく身を任せた。
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