第4話 鳴かぬなら…

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強盗が一歩一歩近づいてくる。回りのものを蹴り飛ばし大きな音を立てながら威嚇し、自分の力を誇示し優位性を示すように右手には拳銃をチラつかせて。 「やばいな…」 隣で慌てる和志を見て自分も同じようにパニックに陥らないよう必死に戒め、冷静に打開策を練る。 恐怖の反面、妙な高ぶりを感じる。それはホラー映画を見てるときやお化け屋敷、ジェットコースターなどで感じる恐怖とは別の高揚感。 それらとは比べ物にならないほどにドクドクと高鳴り湧き出てくる。   一種の麻薬のようなそれに飲み込まれそうになる自分を抑えながら、苦し紛れの策を頭に行動に移す。 「あのー、愚かな愚かな強盗さん、あんたは本当にバカですね」 「なっ! なんだと!」 俺の安い挑発に乗った強盗は声が怒りで上擦ってた。 その挑発があたっていることを証明するように向かってくる音が荒々しさを増した。 「おい、四郎! 何言ってんどぅもごっ」 俺の突飛な行動に困惑して騒ぐ和志の口を手で塞ぐ。 俺に考えがあると目で和志に訴え掛けたが、わかるはずもなく引き続きモゴモゴ騒いでいる。 「だ・か・ら、バカだと言ってるんですよ! この強盗には全く計画性が感じられない、皆無だといってもいい。それにすぐ激怒し回りが見えなくなっている。まさに低脳だと―――」 パァァ――ンっと、またもや俺の台詞を遮るように銃声が響く。強盗が上に向けた拳銃の銃口から薄い煙りが立ち上りそれが行使されたことを物語っている。 でしゃばった俺に対しての本気の威嚇とばかりに銃弾を放ったのだろう。 図星も図星、パブロフの犬も真っ青なほどの条件反射。これを単純馬鹿と言わずなんという。 強盗の手際の悪いさ、それに伴う計画性のなさ、そして激情型の短絡思考、助かる糸口がだんだんと見えてきた。
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