珍客

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同じ時、城の奥深くの一室で、現王・晃眞(あきま)は執務を終えてくつろいでいた。 「う―ん…今年の野菜の出来は…地域により差がありすぎるな。城都からの支援を多くして…」 仕事は終わっているのに、まだブツブツ言っている。 晃眞は齢五十過ぎ。普通なら、まだ王としては先があるはずなのだが… 「失礼いたします。主上、沙貴妃樣がお話があるとのことで、おみえになっております。」 ふと聞こえた側近の声に、晃眞はピクッと眉をあげた。 「そうか、ここへ通せ。」  御意 と聞こえて少し後、執務室に美しい女が入って来た。 「執務はもう終わりましたか?主上。」 女が微笑む。 「あぁ。最近は作物の報告が多くてな。その処理ばっかじゃ。」 ニカッと晃眞が笑った。  沙冴菜(しょうさえな)は王・晃眞のたった一人の妾であり、また風華の母で、朱華の叔母である。 沙貴妃はスタスタと晃眞の前の椅子に座り、真剣な眼差しを晃眞に向けた。 晃眞もそれに気付き、正面を向いた。 側近達が茶の準備をして、部屋を出ていくのを確認してから、沙貴妃は口を開いた。 「今日、朱華が私の元に来ました。」 「して、朱華は何用で?」 晃眞を茶をすする。 「朱華は、…私を王にするのは、適当ではない。力も器も持ち合わせていない―。と、申しておりました。」 「ほう?冴はどう答えたのだ?」   「私は、もともと朱華を王として立てたいと思っておりましたので、その言葉を聞いて戸惑い、何も言えませんでした。」 沙貴妃は溜め息をついた。 「そうか…。その言い方だと、あの子は風華を王にしたいと考えておるのだな?」 「恐らく…。」 少しの間、晃眞は目を伏せて沈黙した。 「…二人の力は、とても光一族としても誇らしい能力。  だが国を治めるのに向くのは朱華。国を守れるのは風華。 うん…。 どっちも必要だがのぅ。時間はもう無いし…。」  実は光ノ国では、なぜか女性の方が力が強く、安定している。  男性の場合、力は持つが早く衰えることが多く、国を守れなくなることが多い。 晃眞も、最近の自分の力の衰えを感じていたのだ。
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