珍客

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そんな二人の会話を聞いて、菖韋は眉をひそめた。  (他の女官が講義に行ったというのに、ここに居ると言うことは、この女性はまず下格の女官では無い。  だからと言って、上格の女官だとしても若すぎる…。 歳も私達と近いように見えるが…?) 菖韋のひそめていた眉が、みるみる深い眉間のシワを作り出す。  そして、菖韋の頭をよぎった別の疑問がもう一つ。  (…なぜ悠咏様は、正体もなんにも明かさない女性を丸っきり疑わないのだ…?)  菖韋はそんな悠咏の心を理解できなかった。 「おい菖韋ぃ!!置いてかれたくなければ早くこいよっ!迷子の迷子のおまわりさんになるぞ一?」 菖韋から少し離れた廊下で、ちゃらんぽらんなことを言いながら、悠咏は少女と歩いていった。 (迷子のおまわりさんって何だよ!?トンチンカン悠咏様めが!) 作った眉間のシワを解かないまま、菖韋は廊下を駆け出した。  同じ頃、風華付きの上格女官・萠喜(めき)は、さきほど届けられた国王からの書状を読んでいた。 『私が許す。』 だけって…。 なにがなんだか分からない…。 萠喜は溜息をついた。 全く理解不能である。 「あら?萠喜どうしたの~?父上の文にはなんて書いてあった~?」 自室から出てきた風華は、差し出された萠喜の手に握られる手紙に目を落とした。  数秒、風華の思考が止まる。 「えぇと…、父上は何に対して許すんでしょうね~? ちょっと謎ですね~。」 風華は少し笑いながら文を返した。 そう、父・晃眞はいつもこうなのだ。理解しがたい短い言葉を送ってくる。  だが、その言葉の意味はいつも後々わかることになる。  なのでわかる間、言葉の意味を必死に解読しようと、文を読んだ相手は文字と奮闘しなければならない。 「う~ん?この文の短さは、結構早くに答えがわかるんじゃないかな~。」 娘二人はいつものことなので、学習して大体は時の予測がつくようになった。  その時、部屋に向かって女官の声がした。 「萠喜様、朱華皇女様が御用とのことですが…」  (は?………私?) 萠喜は耳を疑った。 そして女官の話が途切れるのを待たずに返事をした。 「わかりました。ではすぐに室に行きますので、お茶の支度を…。」 「あ…いえ萠喜様、朱華皇女様は上室でお待ちになると申され、今はそちらに…。」  ((ーーなぜ室ではなく上室へ?))
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