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橙の光が溢れる人気も疎らな車内で、俺は遠くの景色を見つめていた。
それはいつもと何ら変わりない風景のはずなのだが、この時間だけは哀愁を帯たものになるような気がする。
それはもうすぐ来る秋を疎ましいと言わんばかりの静かな夕暮れ。
隣の君の眼鏡に反射する橙が眩しくて、目を細めた俺に大きな手が降りてきた。
髪を滑る手が
頬に触れ
唇に触れ…。
夕日が眩しくて君の表情は見えないけど、きっと優しい眼差しに決まってる。
「もうすぐ夏も終わりやなぁ」
「…だな」
今年の夏は嬉しい事も悲しい事も沢山あって忙しかったけど、凄く凄く楽しかった。
だって君と一緒に過ごした夏だったから。
今までで一番最高の夏休みだった。
「…また花火しよな」
沢山の星が輝くあの夜空を俺は忘れられない。
ロウソクの火と君の笑顔。
袋から出した花火の散らかったコンクリートの上で抱きしめてくれた事。
それは君との思い出。
大切な2日間。
無造作に置かれた俺の手に手を重ね、侑士は遠くの窓の外を見つめた。
「来年はもっと大切な夏にしよな」
「…うん」
うん……きっと来年はもっともっと大切な夏になるよ…。
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