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僕は衝撃を受けた。
いつもは“大人になった”と言われれば嬉しいものだが、こんな気持ちになるのは初めてだ。
大人になった僕を“あいつ”は哀れんでいる。
何故、大人を哀れむのかがわからない。
僕はなんとか返そうと振り絞った。
「そ、そうだ。大人になったんだ。だから、冷静に判断するし間違っていればそれはしない。だから、あいつが会いたがっているなんて信じられない。僕は……」
「それが大人なの?」
またその言葉に僕は怯えた。
もうまったく何のことなのかわからなくなった。
理解できないことは信じられない。そうだ。
そんな不思議な戦いを僕はもう何時間もしている様な気がした。
しかし、時計を見てみるとまだ数分しかたっていない。
またあいつが言った。
それは悲しそうだった。
「彼は初めて遊んでくれたあなたを待っている。しかし、あなたは帰ろうとする。それじゃ、彼は一体どうやって自分の存在を証明すればいいの?」
もうあいつは泣き出しそうだった。
それを見て焦ってしまう。
これじゃ悪役だ。
あいつを落ち着かせようとしたとき、ふっと意識が昔へ吹っ飛んだ。
昔、まだ幼かった頃。
今日みたいに凄く寒い日で、町が白くなっていた。そんな日に僕は、家から遠く離れた小さな山に遊びに行った。だけど僕は遊び相手を増やそうと思って、彼を見つけた。
彼は無口で動かない。
それでも僕は楽しかった。
白い日にはいつも遊んだ。
そうだ。名前もあった。
“彼”なんて名じゃない。
僕はつけたんだ。
ハッと今に戻る。
目の前には落ち着きを取り戻したあいつ。
しかし冷たい。
なんだろうと見上げてみると、綿のような雪が降ってきていた。
それは町を白く染めていって、あの日の町へと姿を変えていく。
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