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その光景をじっと見ていると、声がした。
「来たんだよ。彼が迎えに来たんだよ」
それはさっきなら、また反論してしまう言葉だった。
しかし、今の僕は素直に受け止めた。
来てから、帰る理由しか考えていなかった。
しかし、彼はそんな僕でも暖かく迎えてくれている。
それに、雪は夕方からのはずだ。
それでも、真昼から降り出した。
彼が必死に僕に会おうとしていることはよくわかった。
「これを裏切るほど僕は大人じゃない」
ふと、そんな言葉が出てきた。
急に手を引かれた。
「じゃあ、会いに行こうよ」
それからと言うもの、時間がかかった今までよりも、早く時間が進んでいく気がした。
僕の方が力も強く、足も速いはずなのに、あいつに引かれている。
目の前には彼の山が見えてきた。
ハンカチを返しに来たわけじゃない。
誰かに話すためじゃない。
違うんだ。ただ会いたかったんだ。
理由なんてどうでもよかった。無くてもよかった。
僕は君に会いたかったんだ。
彼のいる場所に着いた。
しかし彼の姿はなく、ただ一面が白く染まっていただけだった。
昨日はなんとかいたらしいが、いなければ仕方がない。
僕はせめてもと思い、ハンカチを出して、彼に返そうとした。
すると、あいつがそれに反応した。
「それ、私の……」
僕はそれに…………。
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