伊藤幸宏の「ありがとう」

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「何だよ。親父が謝るような事なんて一つもないじゃないか」 「お前にこれ以上夢を追わせてやれない。ごめんな」 親父が空を見上げる。 よく見れば、少し肩が震えているようだった。 「やめてくれ。むしろこっちが謝りたいくらいだ。こんなろくでなしにいつまでも付き合ってくれて。本当にごめん」 「息子の夢を応援するのが親父の務めじゃないか」 こちらを振り向いてニカッと笑う。 私もそれを見て、ニカッと笑って 「ありがとな」 「いいって事よ」 まだローンの残っている家に着く。 まるで学校から帰ってきた子どもの様に、「ただいまー!」と大きな声で玄関を開ける父親の背中に、私は心の中で呟く。 「ありがとう」
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