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季節はうるさく鳴くセミの声が消え、代わりに美しい鈴虫がほのかに音色を奏でだしている。
外を見ると日はとうに西の空に沈み、天には美しい満月が優しく闇を照らしていた。
そんな月をまだ幼い少女が自分の頭が少し出る高さの窓から一生懸命に眺めていた。
しかし、あまりにも冷たい風がヒュ~ヒュ~と窓から家に入って来るので少女の父は口を開いた。
「幸や、そろそろ冷えてきたころじゃし窓を閉め、こちらにいらっしゃい」
そう言うと彼はポンポンと自分の膝の上を叩いた。
それを見た娘も上機嫌で返事をした。
「はい父様」
幸はまだ外の月を見ていたかったものの、大好きな父に言われとたん素直に閉めパタパタと走り彼の膝の上にちょこんと座った。
「まぁまぁ、幸は相変わらず父様のお膝がお気に入りですねぇ」
父と囲炉裏を挟んだ逆の方に座っていた母はクスクス笑いながら手を火にかざしていた。
しかし、幸はその言葉を聞いて慌てて父の膝から飛び降り、母の手をつかんだ。
「幸は父様のお膝もすきですが母様のお手ても好きです!」
「まぁ」
「ははッ幸は欲張り者じゃのう」
そう言うと父は腰を上げ、母の横に座り幸を自分の膝の上にそして母も上機嫌な幸の頭を優しくなでた。
幸にとってこの時間が何よりの祝福の時。
大好きな父様と母様の笑顔。
5歳の幸はこの時間がずっと続く用に感じてならなかった。
しかし、それは一瞬で崩されてしまった。
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