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「今から、隣のビルに移る計画を発表する。」
「・・・・・」
「まず、ガンマ。」
へっ、とせせら笑って、さっきの煙草男が立ち上がる。
「今の建材で上ェ登れば、確実にこのビルは崩壊する。」
ガンマは上まで登り詰めた時のビルの高さ、強度を計測した。派手な計算式を並ばせて導いた答えは、もうこれ以上登らない方がいい、という事だった。
「まァこんな所だ。ンで?何か反論したそうな顔ォしてんなァ、煉。」
すっ、と眼鏡の男が立ち上がる。ふわふわした黒髪をかきあげて、邪魔そうに前髪をふるった。
「強度の点なら心配ない。軸部には強靭な建材しか使っていない。物理的に言えばまだ登れる。」
すっ、と横から体躯の良い男が現れた。ずん、と前に進み出て辺りを見回す。
「…生活品。」
「余裕は?」
中央の男が問う。
「微弱。ガンマ、頼む。」
「あィよ。日数計算だな。ちゃんとストック教えろよ、ドク。」
「後。」
それだけ言うと、ドクは引っ込んだ。
「話を戻そう。ガンマは計画の進行は崩壊に繋がると。対して煉は地盤の強度を保証している。」
互いが互いを見る。睨む、ではなく。
「どうする、エス。」
呼ばれて、ようやく片隅にある机に周囲の目が向いた。
「…まだ下部チームの話を聞いていない。」
周囲の目はゆっくり金色の短髪男に向いた。
「え、いや、その。」
ごくりと息を飲み、さらにはっ、と一息。
「あの、まだ熱いです。」
「熱い、ってどれくらい?」
「あ、かかかなりですっ。」
周囲の目はまたエスに向く。
「という訳だ。」
しばらくエスは頬杖をついて黙りこくった。
「お前はどう思う?倉井。」
中央の男が左下へ視線を向けた。端正な顔立ちが暖炉の炎に照らされる。
「将が言うのならば、まだ地表には降りることはおろか、下層部から建材を調達することも難しいだろう。」
将はおろおろしながら数歩後ずさった。
「・・・・・」
「エス。」
「・・・登る。」
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