おぼろ月夜

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一人の夜は長い。 時々聞こえる隣の部屋の人の笑い声に耳を塞ぎたかった。 普通は家族が住む広さのマンション。六畳二間に四畳半が一部屋。 学校から近いと言って、父が一人で決めた部屋だった。荷物が少ないためガラーンとしていて殺風景だ。 父は大学病院の医師で実家もお屋敷のように広い家だから一部屋のアパート暮らしなど考えられないのだろう。一緒に暮らしていた時もそうだった。娘のあたしでも信じられないくらいのボンボンぶりを発揮していたのだ。お見合いで出会った庶民のお母さんとうまくいくわけもなく、ケンカばかりしていた・・・けど、今思えばあの頃が一番幸せだったのかも知れない。
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