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『うっ……うぅ……』
幹と向かい合ってないていると、いつも母が迎えにきた。
『狭夜。…おいで。』
優しく声が掛けられる。だが、母へと振り向かずに首を横に振る。
『…っやぁ!!けんどうなんてしたくないっ!!何で、ほかの子はしてないのに、さやはしなきゃいけないのっ…』
周りの女の子は、剣道なんてせずに普通に遊んだり、習うとしてもピアノだとかだった。
母はゆっくりと私へ近寄り、そっと私を振り返らせて、目線を同じにするために屈んだ。
『…狭夜。お父さんは狭夜が嫌いだから剣道をさせてるんじゃないのよ…?』
『……グス…、じゃぁ、なんで?』
『お母さんもだけど、お父さんは、いつかきっと必要になる。今は苦しいだろうが、狭夜の為だって』
『さやのため……?嫌いじゃない?』
母は可笑しそうに笑った。
『…フフ。狭夜を嫌いな訳ないわ。今頃、階段の下でウロウロしてるわよ』
そう言って、母は私の手を握り、階段の方へと連れていく。上からそっと覗いてみると、父が8の字を描きながらウロウロしていた。
『フフ。ほらね。お母さんもだけど、お父さんは狭夜のことが大好きだから、狭夜を探しにきたのよ』
母は、そう言いながら屈み込み、抱き締めながら言葉を続ける。
『…だから、頑張って…離れ離れにならないで済むよう、強く…』
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