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「ありがとうございました」
一礼をし、荒い息を整える。
「狭夜。随分上達したな」
と、父が小さく笑みを浮かべながら、誉めてくれた。
父が誉めてくれることは滅多にない。嬉しさと照れで弛みそうになる頬を引き締めながら
「本当に?でも、まだ一度もお父さんから一本取れてないんだからまだまだだよ」
と、返す。向かい合ってるときの父は凄い。普段は常に穏やかな瞳をしているが、剣道など向かい合うときの瞳は、ただ真剣。相手に隙を見せず、相手の隙を見逃さず、圧倒されるほどの威圧感がある。
生徒達にも強い人はいるが、父のような威圧感を出せる人は見たことがなかった。
休憩を終え、次に移るのかと思っていると、
「…狭夜。今日はこれまでにしよう。お前には、大切な話がある」
と、父が真面目な顔をして言った。穏やかな瞳が少し、…ほんの少しだが翳って見えたのは気のせいだろうか。
狭夜は、いつもと違う何かに不安を駆られながらも、小さく頷いた。
遠くで聞こえていたはずの雷鳴が、豪雨と共にあたりを覆っていた。
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