第一章  真実

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―ガラ―… 後ろを振り返ると、母が傘を閉じながら入ってきた。母は稽古中は滅多に道場には近寄らない。痛そうで見ていられないらしい。 その母が、いつもなら稽古中である筈の今、ここへ来たことで先程感じた不安がより大きくなる。 「…お母さん…?」 どうしたのかと訊ねようと声を掛けるが、母の顔を見て続く言葉が出てこなかった。 母は、ただでさえ色白なのに、血の気が引いたように顔色が悪い。今まで眉間に皺を寄せているのを見たことがない程、常に穏やかな顔に似合わない、とても哀しげに眉を寄せていた。 声掛けには返さず、静かに父の隣へと歩いていく。 父は母が隣に来たことを確認し、母と自分に座るよう促す。 二人と向かい合うように座り、不安に眉を顰めながら父と母を交互に見つめる。 「…お前も明日で17になる。もう、お前に本当のことを打ち明けても大丈夫だろうと、昨日母さんと話し合って決めたんだが…」 そこまで言って、一旦口を閉ざす。そして、意を決したように息を吐き、真っすぐ自分を見つめながら口を開いた。
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