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「とりあえず、お前を家へと抱えて帰った」
父は、その時を思い出したかのように眉を顰める。
「お前は、怪我一つないのに…血塗れだった。何か身元が判るものがないかと探してみると…」
父が言葉を一旦区切ると、母が小さな布切れを私の前へと差し出した。
「血で服が染まっていたのでこれだけしか残さなかったが、私は自分の目を疑ったよ」
私は、おそるおそる布切れを手に取り見てみる。確かに血のような物で所々染まっていた。読みにくいが文字が書いてある。
「……弘…化、四年……?……狭夜……」
私は目を見開いた。有り得ない。有り得ないことばかりだ。信じられる筈がない。
だって、弘化四年…確か、1847年だ。江戸時代後期だった筈。
「私も信じられないが、不思議と捨てることができなかった」
頭が混乱して、視界が揺らめく。無意識に布を持った手を握り締める。父が何をいっているか分からない。
「例え、それが本当のことだったとしても、私達にとってお前は……」
父が話しているのを遮るかのように立ち上がり、父と母から目を逸らし、逃げるかのように靴を履くのも忘れ、道場を飛び出した。
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