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おかしい。町並み、この高層ビル、あの受付嬢…。今まで生きてきた世界と似すぎている。やはりドッキリなのだろうか。本田の葛藤は終わらない。
受付を通りすぎると少し開けたフロアに出た。相変わらず高級感のある壁。照明が周りを幅広く照らし 床から反射する。
『なにを呆けてる。今からエレベーターに乗って社長室…閻魔様のとこに行くんだぞ。しゃんとしろ!』
夢瑞は急に大声をあげた。
「いや、ちょっとまて夢瑞。聞きたいことが山ほどある」
『なんだ?』
「まず…この世界なんだが、俺が生きてた頃の世界観に酷似している。どういうことだ?」
『確かに俺ぁここが“天界”と言ったよな。お前の思い描いていた天界とはなんだ?。確かにボウズが死ぬ前に暮らしていた風景と同じように見えるだろうな。だが、それはボウズが日本で生まれたという閻魔様の考慮だ』
夢瑞からもっともらしい説明を初めて受ける。
「考慮だと?。よくわからんぞ?」
『考慮っつうのは、死人への思いやりだ。例えば日本の人間が死んだとき、死の世界…“天界”も母国と同じような世界観だったら気持ちが楽だろう?。』
「…そうだったのか」
話をまとめると、死人の母国が違えば死の指導員も、さっきの受付嬢も“別な人”になっていたのか。
まぁ、確かに話の通じない言葉を掛けられ、訳の分からないとこに連れて行かれるよりはマシだった。本田は自分で分かるくらい冷静でいられた。
『天界にはルールがあるって言ったよな?。全てがボウズの思い通りではない。そこは理解していろよ』
「忠告どーも」
“考慮”によって産み出された世界。閻魔という奴は世界を造れるというのか…。馬鹿げている。
夢瑞と本田はエレベーターの前まで到着した。夢瑞が本田を凝視した。
「なんだ?。顔に何かついてるのかよ」
『違ぇよ、馬鹿!!。その服装だっ!。閻魔様に会うっていうのにボロボロな格好だし…情けねぇ。ペッ』
「うわ!汚ねぇなジジイ!!」
本田は紙一重でツバをかわした。
『センスがねぇんだよ…』
確かに本田はファッションに興味は無かったが、こんな老人に言われたくはない。まるで学生時代、身だしなみが悪いと教師に言われたことを思い出してしまう。あんましいい気分ではない。
「話が長ぇよ…。早く行こうぜ」
相手にするのが面倒になった本田は 自らエレベーターのなかに入っていった。
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