彼は遠くへ行く

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「冷やし素麺にしようかと思って。あんた食べたがってたでしょ?」 「やっぱりそっかぁ! 夏はやっぱり冷素麺だよね~♪」 大好きなメニューに小躍りしてはた、と気がついた。 昔から姉は食事に対してはもの凄く拘る。 4年前に結婚してからはそれに健康志向がプラスされた。 コンビニの弁当や、冷凍食品など添加物の塊だと見向きもしない。 最近ではキューブのコンソメ・粉末状の和風だしの素でさえ極力使わない、といった徹底ぶりである。 そんな姉であるからして、市販の素麺のツユなど使うわけが無い。 「…お姉ちゃん、もしかして今作っているのって素麺のツユ?」 「そうよ? 鰹だしをとって今から味付けするところ。美味しくするから楽しみにしていてね」 そう言ってにっこりと笑う姉。 今から味付けして、それを冷やさなきゃいけない訳で…。 「あと何時間かかるんだろうなぁ」 私は苦笑いしてそれに答えた。 ご飯の前にスイカバー、あと4、5本は食べられそうだ。 居間に移動し、時間潰しにテレビをぼんやりと眺める。 漫画やテレビゲーム機といった物が姉の家…姉夫妻の家には全く存在せず、大学の夏休みを利用してこの家に滞在してから5日間、私はかなり暇を持て余していた。 パッパッとチャンネルをザッピングしていく。 今の時間帯はニュースが主らしく、どのチャンネルも政治がどーたらとか、芸能人のAとBが結婚したとか、似たようなつまらない話題しか放映していない。 が、とあるチャンネルで私のリモコンを弄る指が止まった。
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