彼は遠くへ行く

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どうやら最近の話題をフラッシュで送る、みたいなコーナーらしい。 『日本人で10人目の宇宙飛行士が先週金曜日、NASAのスペースシャトルで宇宙へ―――』 やけに声が高い女性アナウンサーのナレーションが流れ、画面にはヒョロリと背の高い男性が照れたように笑う姿が映った。 「お姉ちゃーん、お義兄さんテレビに出てるよ?」 台所に声をかけると、菜箸を握ったまま姉が居間へと顔を出す。 「あぁ、本当。なんかこんなにテレビに出てると自分の旦那だって信じられないわよねぇ」 じっとテレビを見つめぼそっと呟き、そのまま私の隣へ腰を落ち着けた。 「お義兄さんってやっぱり背ぇ高いね?」 「まぁね、190近くあるし」 「道理で…外人さんと並んでも頭一つ分でかいし」 言いながら食べかけのスイカバーを姉にひょいと差し出すと彼女は無言でソレを少しかじる。 あ、チョコ多いとこ喰いやがった。 テレビでは相変わらずキンキン声の女性アナウンサーが喋っている。 『今回は長期に渡る実験が有る為、フライトは4週間と長めですが不安は無いですか?』 照れ笑いの義兄の顔がアップで写る。 元々目の細い柔和な顔立ちなので、微笑むと更にそれが強調される。 結納の席で初めて彼を見た時、なんかキリンっぽい人だと感じたことをぼんやり思い出す。 背の高い草食動物。 大きくて穏やかな人。 そしてそれは間違いではなく、気性の荒い私の父や(酔っ払うとさらに凄い)その血を間違いなく受け継いでいる口の悪い姉に何を言われても、彼は激昂することなくニコニコと…少し困ったような表情で、やはり笑うだけだった。
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