彼は遠くへ行く

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お陰で姉が結婚してから4年間、この夫婦は特に大きな喧嘩もすることなく無事に続いている。 おそらく義兄の草食動物のように大人しく、争いを嫌う性格がそれに貢献しているであろう事は間違いない。 ブラウン管の中の義兄はにこやかに質問に答えている。 『いえ不安は皆無です。念願だった宇宙に行けるという高揚感と期待感だけですね』 「うわーカッコイイ事言っちゃってるねぇお義兄さん」 「実際あの人不安なんてないもの。本当に嬉しそうにしちゃってさ」 ぶすっと何かいじけた表情のまま、じっとテレビを見つめる姉。 「お姉ちゃんは心配なんだ?」 私の問いに姉は思いきり首を縦に振る。 「そりゃぁそうよ。事故に合う可能性は恐ろしく高いし、宇宙になんか行って欲しくなかった。彼に何かあったらどうしようって、不安の塊だわ」 「やっぱ夫婦だねぇ、愛されてんなぁお義兄さん」 「ばか」 茶化すような私の言葉に然したる反応もせず、姉は相も変わらずの表情でテレビ画面の義兄を凝視している。 インタビューはまだ続く。 『スペースシャトルのクルーに選ばれた事についてご家族や周りのご友人の反応は如何でしたか?』 『両親、兄弟、妻も私が今回乗組員に選ばれたことを自分の事の様に、とても喜んでいてくれて頑張ってこいと背中を叩いて送り出してくれました』 …とても喜んで送り出した、という顔色では無い姉を横目でちらりと眺めた。
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