136人が本棚に入れています
本棚に追加
「お姉ちゃんもさ、父さんみたく反対すればよかったのに」
彼女はテレビから私に視線を移し、深い深いため息を吐く。
「そんな事出来ないわよ。だって仕方ないじゃない? あの人にとって今、一番大事なのは――」
あの人にとって一番大事な物は。
姉がそう言いかけた時に、台所でジューッと蒸気の上がる音がした。
「大変っ、火ぃ付きっぱなしだったんだ!」
悲鳴を上げバタバタと台所へ走っていく彼女。
「大丈夫~?」
私も少し遅れて向かうと鍋から吹きこぼれが有った様で、姉はびちゃびちゃになったコンロ付近を拭き片付けている。
「あぁーん。もう一回素麺ツユ作り直しだわぁ」
「……お疲れ様です」
冷素麺が食べられるのはまだまだ先になりそうだ。
あぁ、お腹がそろそろ限界だというのに。
…やっぱりスイカバーあと4本位食べておこうか。
ビデオを2倍速にしたようなスピードで猛烈に料理を再開する彼女は、私が再び冷蔵庫からスイカバーを引っ張り出してもそれを注意する余裕もないようだった。
ここに突っ立っていても邪魔になるか、手伝いを命ぜられるかのどちらかだと判断し、私は居間へと退散することにした。
最初のコメントを投稿しよう!