彼は遠くへ行く

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「お姉ちゃんもさ、父さんみたく反対すればよかったのに」 彼女はテレビから私に視線を移し、深い深いため息を吐く。 「そんな事出来ないわよ。だって仕方ないじゃない? あの人にとって今、一番大事なのは――」 あの人にとって一番大事な物は。 姉がそう言いかけた時に、台所でジューッと蒸気の上がる音がした。 「大変っ、火ぃ付きっぱなしだったんだ!」 悲鳴を上げバタバタと台所へ走っていく彼女。 「大丈夫~?」 私も少し遅れて向かうと鍋から吹きこぼれが有った様で、姉はびちゃびちゃになったコンロ付近を拭き片付けている。 「あぁーん。もう一回素麺ツユ作り直しだわぁ」 「……お疲れ様です」 冷素麺が食べられるのはまだまだ先になりそうだ。 あぁ、お腹がそろそろ限界だというのに。 …やっぱりスイカバーあと4本位食べておこうか。 ビデオを2倍速にしたようなスピードで猛烈に料理を再開する彼女は、私が再び冷蔵庫からスイカバーを引っ張り出してもそれを注意する余裕もないようだった。 ここに突っ立っていても邪魔になるか、手伝いを命ぜられるかのどちらかだと判断し、私は居間へと退散することにした。
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