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抱き締めて、キスをして、好きだと囁いて、身体を繋げる。
彼は未だこの想いを認めてはくれないけれど、幸せなんだと思う。
彼が好きでもない奴(まして自分と彼は同性だ)に身体を開く程馬鹿でも弱くもないことを知っていた。
弱くも、というのは精神的な面も含むが肉体的なことも言える。
河島と腕相撲をして勝ったことは一度も無いし、悲しいかな体力も河島の方がある。情事のあと河島が先に眠りに就くのだって、受け入れる方が快感も負担も大きいせいで、まともに体力勝負をしたら絶対に勝てない。技術も、彼は幼少期から武術を習っているらしく強い。やたら足癖が悪いのはこのせいだろうか。筋肉質な身体を抱き締めた時に触れる髪が柔らかくて気持ち良くて、ずっと弄っていたらくすぐったいと言って脛を蹴られたこともある。
彼に触れることが出来るのは殆ど肌を重ねる時くらいで、河島が嫌がるからデートもしたことは無いし一緒に帰っても手を繋いだこともない。河島はそのことに何の疑問も不満も無いようだが、藤見は不満だらけだった。
人前で抱き締めたいとかデートは(本当はしたいけれど)我慢しよう。
だからせめて、セックスの間だけでもいい。
素直な彼が見たかった。
今まで見たことのない河島を、見せて欲しかった。
好きとか、気持ち良いとか、欲しい、でもなんだっていい。
今まで見たことのない姿や聞いたことのない声、言葉が知りたかった。
彼を、河島を、好きであるが故に。
だからきっと、妖しい店に足を運んでしまったのも、そこで妖しい玩具を買ってしまったのも、彼が好きで、それを使った時彼がどうなるのか気になったからであって、偶然それに“試供品”なるものが付属されてきたのは河島にとって災難でしかなかった。
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