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「ぁあ…っ、は…ぁ、…ぅ」
悲鳴を上げてびくびくと身体を跳ねさせた彼に顔を近付ければ潤んだ瞳に僕が映り欲情しきった己の表情に思わず笑みが漏れそうになるが、その前に彼の零れそうな程の涙が、ぼろ、と決壊した。
泣かせたかった。
ずっと、河島の涙が見たかった。気持ち良くなって流す涙が、見たかった。
それなのに、これは違う。
河島の腕が顔を覆い隠し、ただ、震える。
「嫌だ…っ」
絞り出すような声は切なくて、この自分勝手な行為が彼を追い詰めていることに漸く気付いた。
スイッチを切って、彼の体内に埋め込んだものを抜く。
「ごめん、河島」
「………っ、なんで、こんなこと…っ」
彼の柔らかい黒髪をそっと撫で、もう片方の手で顔を覆っている彼の腕を退けた。
「河島が、好きだから」
「っ、嘘だ」
どうして、信じてくれないんだ。
こんなにも好きで、抑えきれなくなるほどの想いを。
「好きだから、不安になるんだよ。河島は言ってくれないから」
僕が何度想いを伝えても、彼は応えてはくれないから。
どうすれば聞き出せるか躍起になってしまった。
結果、彼を傷付けた。
「…………」
黙り込んでしまった河島は、一体何を考えているのだろうか。
馬鹿な奴だと呆れている?
欲しいのは河島だけで、抑えきれなくなるほど好きなのに。
「…俺はっ、お前だから…っ」
「…河島?」
震える声で、それでも真っ直ぐに目を合わせて必死に言葉を紡いでいる。
河島は嘘は吐かない。ただ、ひねくれているだけで。
「…こんなこと許すなんざ、正気の沙汰じゃねぇ」
ねぇ、河島。
それは、僕じゃないと嫌だってことだと思ってもいいの。
薬に頼ったことが、河島の口を余計に塞いでいたということだろうか。
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