甄遼‐シンリョウ

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「なぁ、まだ着かないのかよ?」 だらしない身なりの若い男‐野村安浩(ノムラ ヤスヒロ)は不満をあらわにした口調で言った。 「道を間違えてるんじゃねえのか?」 顔が膨れていて、やけにカッコつけた若い男‐田所惇(タドコロ ジュン)もイラ立ちながら言う。 「近道をすると盗賊の巣窟のそばを通ることになるからな。余分な戦いはしたくねえんだよ、面倒臭いじゃんか」 落ち着いてなだめる、クールなワルに見える若い男は甄遼だ。 彼は野村と田所より二歳年上である。 野村と田所は23歳、甄遼は25歳。 知的な印象を与える外見の甄遼だが、身長は二人よりも小さい。 176㎝の野村と174㎝の田所に対して、甄遼は171㎝。 なのに、野村と田所を従属させているように見えるのは、甄遼の方が二人よりも大人びた感じがするからだろう。   「着いた、あそこだ。」 甄遼は複数の建物が見える街を指さして言った。 「あの街、燃えてるじゃんか」 あきれたような口調で野村が言う。 「…マジかよ。着いた意味がねえなぁ。合肥に行くまでに一息入れることもできねぇ」 がっかりして言う田所。 野村は街をよく見ていたが、いきなり 「あれ、盗賊に襲われているんじゃねえか?」 と言い出した。 「なんでだよ?」 甄遼はきく。 「耳をすましてきいてみろ。戦場でしかきけないような叫び声がきこえるだろ?」 野村の言う通り、田所は静かにして聞いてみた。 「…ホントだ!兵士の掛け声に似た声がきこえる!」 「なんだって?」 甄遼は顔をしかめた。 「おい、盗賊どもを倒して、町人から褒美をもらおうぜ!」 田所がノリノリで叫ぶと、 「おっ!それはいいな、ちょうどいい、ストレス発散になるぜ!」 野村は賛成して、街に走って行った。 田所も彼に続く。 「ちょっ…待てよ、お前ら!」 甄遼はあわてて追い掛けた。 こういう面では野村と田所を制御できていないようである。   三人が街に着いてみると、凄惨な略奪が行われていた。 道のあちこちに人が倒れている。 「えらく派手にやってるじゃねえか」 田所は感心したような口調で言った。 「盗賊が無抵抗の住民を殺すのはいつも変わらんな」 田所がそう言い終わらぬうちに、賊兵が切りかかってきた。 野村が薙刀で賊兵を切り捨てる。 「敵と思われているらしいぜ」 野村は他人事のように言った。 「当然だろ」 サラリと言って甄遼は長剣を抜いた。
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