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どれだけ体に傷が刻まれても、服が己の血で汚れでも、彼女は決して歩みを止めない。止めないのだ。
「はぁ、はぁ……くッ」
時折、血が足りないせいか気が遠くなる。その度に、自分の舌を噛んで意識を呼び戻す。口の中は鉄の味しかしない。
「先生の所に……」
そして、少女は目的の場所――屋敷の屋上へと辿り着いた。
真っ先に、屋上の端に佇む、フードのついたコートをはためかせた一人の男を見つけた。
そう、彼こそが青年であり、先生と呼ばれる存在。
少女のすべての人生を覆し、変えた人。
「花売り君」
少女に向かって振り返ったその顔は――優しくて、どこか悲しい、あの時の顔をしていた。
二人が出会った、あの時の……。
これは、一人の絶望に生きた少女と、謎の青年が紡ぐ、不思議な物語。世界を巻き込んだ奇跡の序章である。
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