病に勝った少女..弐話

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病院のフロントはナースステーションと繋がっている。あらゆる事態に臨機応変な対応をとれるよう配置された、当たり前の構造だ。 封筒を手に、私はカウンターへ体重を傾ける。可愛らしいウサギのぬいぐるみが、目の前で日捲りカレンダーを抱えて鎮座していた。向こうには縦に長い水槽の中で熱帯魚が泳いでいる。 広いロビーに整然と並んだソファ群、ぽつりぽつりと座っている患者と見舞い人、間を縫うように駆ける看護士。見るものも定まらず、ただ、ウサギの輝く瞳を見つめた。 「やぁ」 「先生」 肩へ、程良く安心する力加減で置かれた手。振り返ることなく、主がわかる。親友の担当医だ。この人とも、久しい。五日前のあの日以来だ。 少しの沈黙と、ナースステーションからの小さな音が間を繋ぐ。ため息のように声を漏らしたのは、担当医だった。 「何を話せばいいか、迷ってしまうね」 「そうですね」 お互い、思うことは同じらしい。共通点であった親友がいない今、私達の関係性はどこまでも薄い気がした。 五日前のあの日まで、親友の話以外では何を話していただろう。 「聞いたよ。捜査協力をしに来たんだって?」 「はい。また来ることになりました」 「どうして」 「この封筒の内容を、解読してこいと。暗号が多用してあって、家にある解読書がないと解けないんです」 私達昔から、こういうのが好きだったから。そう笑ってみる。見たことのある奇っ怪な文字。忘れたわけではない。 昔の言葉いじり。二人だけが通じ合っていた、そんな頃。これでまたそんな親友と遊べる、そんな気がした。 「嬉しそう、だね」 「不謹慎ですか?」 「僕は、いいと思うよ。」 担当医はゆっくりと、顔の筋肉から力を抜いた笑みになった。私も、同じような笑みになっているといいな、と思った。私達はやはり、親友が共通点なのだ。 しばらく話した後、担当医は看護士に呼ばれて行った。最後に、またね、と頭を撫でて。 私はナースステーションの方へ顔を向ける。数人の女看護士が、視線に気付いてこちらへ歩み寄ってきた。待っていたのか、その足取りは速い。 まるでダイヤモンドのように輝く瞳は、何を捕らえているんだろう。私にはすっかりわからない。 .
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