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看護士たちは輝く目に少しの落胆を添え、結局は私を捕まえた。辺りを囲み、清潔な香りを漂わせる。
そして何とはなしに、一方的な会話が始まった。
「先生ったら、お昼くらい一緒に食べてくれたっていいわよねぇ?」
「そうよ。夜はオツキアイって感じでイヤ。」
「あの子の担当になってからよ。」
私にはおよそ出せない、延びた語尾と艶やかな中声。大学生ぐらいが聞けば目の色を変えそうなその声は、全て、暗に、私からの情報を掻き出すためのものだった。
担当医はモテている。昼食の誘いも多いのだろう。しかし、昼休憩時に彼の姿を院内で見た者はいないという。夜のオツキアイには顔を出すが、まさに社交辞令、といった体だとか。
極めつけが、私の親友だ。彼女が入院し、担当医がその地位を得た頃から、そういった行動が目立つようになったらしい。
「ね、あなたは何か知らない?」
私に聞かれても。反論しつつ、しかしながら、同じ女という種族。聞きたい気持ちがわからないわけではない。そして、親友がいない今ならば、言ってもいいのかもしれない。
私の耳にはタコが大量発生し、なおかつ馬に念仏が唱えられていたことをだ。
「あの子も、同じことを言っていました。」
「え?」
「夜は誘えませんが、せめてお昼を一緒に、と申し出たら、断られたと」
「嘘でしょう?」
「本当です。私の親友も、ナースの皆さんと同じ悩める乙女だったみたいです。」
つまり、今看護士から聞いた話を、親友からも聞かされていたというわけだ。幾度となく、途方もないほどに。私は話を聞く天才だと讃えられたこともある。自慢ではない。
看護士達は一様に安心したようで、私を解放してくれた。ようやく、帰宅できそうである。
長い長い昼休みだった。
本当に。
参話に続く。
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