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学校へ歩いて戻る。自転車を持ち帰ろうと思ったのだが、鍵が奪われたままだったことに気付いた。坂道を少し走るように、歩く。まだ日は高い。携帯電話を取り出して、待ち受け画面から読みとる時間は、放課後まであと15分。メールが一件、届いていた。
先輩。
背筋がぞわぞわと震える。驚いた。まさか、いつのまに。教えた覚えがない。怖い。
本日二度目の混乱と戦いながら、歩く足を止めず、メールを開いた。車でこの坂を上ったときに思ったジェットコースターの絶対的恐怖は、これだったのか。時間差攻撃だ。
内容は簡単だった。放課後、鍵を返します。と短い文章に、先輩のクラスナンバー。最後に、病院お疲れさまでした。と書かれていて、泣きそうになった。私は先輩に、病院へ行く旨なんて伝えていない。刑事達が伝えるなんてこともあり得ないだろう。
携帯電話はそれ以上の情報は寄越さなかったので、諦めることにした。次に、電話帳機能を開く。サ行を探す。見つけた。
丁寧にも、自宅電話と携帯電話の番号、メールアドレスももちろん記入されていた。メールアドレスは購入時から変えていないのか、英数字が奇列していた。
交換したのはいつだろうか。先輩との初対面は確か、三日前だ。切っ掛けはなく、私が一人で昼食をとっていた時に、先輩が話しかけてきたのだ。
隣、よろしいですか?食堂の端の方だったのだが、その日は食堂利用者が多かったようで、私の隣しかめぼしい席はなかったらしい。一言だったが、懇切丁寧に聞こえた男声に私は小さく頷いた。
学年を表すネクタイを見ると、先輩だったので驚き、同時に尊敬した覚えがある。不快感のない敬語を、私は知らなかったからだ。その後、それは間違いだと思い知るのだが。
結局、交換したときのことまでは思い出せないまま、学校までたどり着いてしまった。再び、携帯電話を開いた。時刻以外の変化はない。
放課後まで残り5分。ゆっくり歩いて、教室に行こう。
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