病に勝った少女..参話

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文字を一度読み直し、それをノートと照らし合わせて解読する。私が今から行う工程は、それだけだ。特に集中力が必要ではなかったので、訥々(とつとつ)と話し始めた先輩の声を、耳に留める。 それに気付いたのか、遠慮をなくした先輩は勢いを増した。答えられませんよと言うと、かまいませんと言われた。笑顔で言うのだから、なおさら無視は出来なかった。 「あなたは、事件をどこまで知っていますか?」 「どこまでって、何も知りませんよ。」 昼休みを気にする様子から、事件とは親友が殺された五日前のことだろう。私が知っている情報は、ニュースで報道された程度。あとは、目の前の封筒から読みとれるであろう、手がかりだけだ。それはまだ解読中なので、知らないと言える。 「ニュースは見ていないんですか?」 「見ましたけど。」 「おかしいとは思いませんか?」 何が、とは問えなかった。ニュースで放送されていた内容に、視ていた全員が感じた感想だ。おそらく。 「どう見ても他殺。なのに遺書が枕元に置いてあった。中身は公表されていない。私が見たニュースでは特集が組まれてましたよ。」 矛盾している事件現場へ対する元刑事やジャーナリストの考察、アナウンサーやゲストが話す見解、一番有力なのは、犯人が書かせて偽装した、という推理。ただ、それにも疑問が残る。内容はそんなものだったか。 私だって、まるっきり興味がなかったなんて嘘は吐けない。他のニュースもいくつか視聴した。どれも、謎だ謎だと囃し立てるだけだったが。 「遺書の中身、知っているんでしょう?」 「え。」 「だからこそあなたは、親友の死を素直に受け入れていない。違いますか?」 「なにを、根拠に」 「今日のお昼休みはどちらに?何故?」 「意地悪な聞き方ですね。」 「それが私ですから。」 遠慮をなくしたからこそ、強気な態度を見せていたのだと勝手に解釈していたのだが、それはどうやら違ったようだ。私はまだまだ甘い。先輩を警戒し、何より観察していたつもりだったが、覆面に惑わされている。 先輩は、覆面を脱ぎ始めていた。三日前の食堂での初対面時に見た、あの素性を曝そうとしているのだ。 .
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