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封筒の解読はまだ一文字目。文章の中から該当する文字を探し出し、変換する。集中力なんていらないと思っていたが、飛び飛びに文字を見つけるため、気を逸らすと見失う。なかなか進まなかった。
それにしても、どれほど楽しそうに笑っているのだろうか。表情だけを見るなら、よもや殺人事件の話をしているとは思えない。そんな笑顔だ。先輩の覆面の下は、そんな風だった。若干、予想外に感じたため、私は椅子を引いた。
「あ、ええと。先輩はどう思いますか?」
先輩を直視できないと判断した私は、すぐに封筒へ目を落とした。そこには変わらぬ奇っ怪な文字だけが並んでいて、安心した。まだ全く見当はついていない。だからこそ楽しい。
視界から消えた先輩からは、小さな笑い声が聞こえた。
「どう思うって何?」
「何と言われましても。すみません。話を進めてください。」
「そうするよ。」
やはり考えなしの発言に対しては厳しい。適当に相槌を打とうものなら、どうなるか。
外には夕方が近づいていた。この学校には下校時刻が設定されていたか、覚えていない。快晴だった朝から考えて、今夕の夕焼けも綺麗だろう。雲もかかっていない空。
「君が知っている親友の遺書の内容は、そんなにおかしかった?」
「そうですね。」
視線を正面へ据える。
話の流れから、質されるのかと思いこんでいたが、どうやらそうでもないらしい。私は頭の中で親友の遺書を反復していた。
親友の遺書。メディアには公表されていない。遺族が遺書を秘匿したため、警察さえ内容を知り得なかったのだ。
私はそれを遺族に頼み込み、読ませてもらった。そして、その時は憤怒した。何故だと喚き散らし、わからないと嘆いた。無様にも、遺族の目の前で。怒りで泣けない私の代わりなのか、遺族は涙を流していた。
「君は何故、納得していないんだ」
「親友は、"完治した病が怖い"と書いて死んだんです。あり得ないと思いませんか?」
「詳しく聞かないと、賛同しかねるね。」
珍しく先輩が疑念の表情を浮かべた。語弊があるかもしれないが、私はそれを初めて見る。
しかし構うことなく話を続けた。
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