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小太りのヤクザ風の男を母親が連れて来た。
『今この人と付合ってるんだ。』
『誰だコイツ…。どう接すればいいんだろ…。』少年は父親が居ない事もあり、大人の男との接し方が解らなかった。いつの間にか当たり前に家に来る様になった男。いつも無造作に上着に入っている大量の札束、男を「兄貴」と呼ぶ数人の舎弟風の男達。ヤクザ風ではなくヤクザだと気付いた頃、少年は敬語を使い顔色を見ながら接する様になっていた。
『アノ人はアンタを本当の息子みたいに思ってくれてるんだから、変な気を遣わないの!』
母親は少年に日頃から言い聞かしていた。
そして数ヶ月経った頃、事件は起きた。
『まったくお前もアホならツレもアホばっかだな!』
男は小さな説教の中でその一言を掃捨てた。その時少年の中で何かが弾け飛んだ。
『ツレの事は関係ねぇーだろうがっ!』
言い返した少年に男の態度は豹変した。
『おい小僧っ!誰に向かって口きいてんだ!コラー!!』
男はそう怒鳴りつけると台所から包丁を持って、再び少年の前に座った。
『誰に口きいてんだ!あーっ!!』
少年がヤバイと思い立ち上がろうと足を動かしたその次の瞬間、今の今まで少年の足があったその場所に…ドスッ!!
鈍い音を立てて包丁が突き刺さった。
『何が息子だ!』
少年はそう叫ぶと素足のまま窓から飛び出した。
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