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飛び上がりたい気持ちだったが、それは叶わなかった。背中の少女が、押さえ込むように肩を掴んでいるのだ。
儚く切ない声と同一人物だとは信じがたい握力。
今にも消えそうな微弱の声で、暗示のような詩(うた)を繰り返す。
「血をください…
血をください…
償いの血を捧げよ」
氷の指先が首筋の刻印を撫でた。
吐息が耳元に在る。
沙羅「あなたの命を……
みんなと同じ、御霊になるの…」
牙が皮膚を貫き、痛みの目眩と快楽の恍惚感に見舞われた。
悠斗「ぁ…あぁ…」
紅牙「おっと…逃がさないぜ」
目の前で友が喰われ逝く様から、視線を反らせないまま後退りする悠斗に宣告する。
紅牙「もう、帰れないんだよ」
悠斗「い…嫌だ…ッ!俺は生きたい…!」
無我夢中で走り出した悠斗であったが、狼の俊足にかなう筈もなく。
飛び掛かった紅牙が鋭利な牙で首を咬み、地に伏せた。
ほんの、数秒の出来事。
沙羅「…足りない。」
数分ぶりに首から唇を離し、飽きた玩具を捨てるように干涸(ひから)びた人型の器を手放した。
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