斉藤由真

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私が喋れないのは生まれつきではないらしい。   ちゃんとオギャーオギャーと産声をあげたらしい。   私は知らないけど。   原因は幼稚園の頃にあった。   車にいきなり飛び出してひかれたんだって。 (バカみたいな話よね。) そして、病院に運ばれて意識がもどった頃には言葉を失っていたという。   学校生活が私にとって煩わしかったものだっていうのは言うまでもない。   喋れないってことは、相手のいうことを受け入れてしまう。言い返せないってこと。   (…よく、悔しくて泣いてたなぁ)   さて、いまの時間は8時30分。 そろそろかしら…。   『由真ぁー!ご飯おいておくわよ!母さん仕事に行ってきますよ!』   予想した通り、1階から母の声が聞こえる。   (はーい、お母さん行ってらっしゃーい)   私の声はとどかない。 それでも母は承知で毎日挨拶して仕事に行っている。   (きっと私が夜中にこっそり抜け出して、部屋にいなくても、母は挨拶をしていくんだろうなぁ…。)   そう考えると自分の存在が儚くなるような気がして、こう考える事は自分のなかでは禁止している。   (この本を読み終えたら、ご飯を食べて、新しい本を調達しに行こうっ!)   体を使う事をするつもりはないが、首を回したりして体をほぐしてみる私。 そして意気込んで…読書!   (あぁ、この本の主人公、どうなるのかしら…)  
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