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線香
葬儀屋は地域密着型の職業で、地元での葬儀の施工が中心です。
したがって 使用する火葬場も 限られていました。
私のいた葬儀屋では、3ヶ所の火葬場をメインに使用していました。
その中の ひとつの火葬場には、大きな石像が祀られていました…
たぶん、無縁仏や殺人、または自殺のような普通の亡くなりかたをしていない人も火葬する為、そんな人達の供養のためだと思いますが…
私が火葬場に同行したときは、必ず その石像に 線香が供えられていました…
ある日私は、火葬場の職員に…
『いつも火のついた線香が供えられているけど、線香って すぐ燃え尽きちゃうから、大変でしょう…』
『誰が管理してるんですか…』
すると職員は…
『たぶん 近所の お年寄りが線香をあげているんだと思うんだけど…』
『うちの職員は 線香あげた事は無いんだよね…』
私は…
『そうなんですか…。お年寄りは お地蔵さんとか大切にしますからね。』
私は そう言って、その場を離れようとしたら…
職員は…
『私は この火葬場で仕事して25年になるんだけど、一度も見たことないんだよ…』
『石像に線香をあげている人を…』
『うちの職員も、誰ひとり見たことないんだよ…』
『もし 線香あげている人を見掛けたら教えてよ…』
いったい 誰が線香をあげているのでしょうか…
結局 私が在籍中は、そんな人を見掛けることはありませんでした…
今も石像には火のついた線香が供えられているのでしょう…
誰の目にもとまらず…
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