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「木戸くんって、彼女いないんだよね」
頭の中に美津子が浮かぶ。
「…うん」
「よかった、彼女いたら悪いって思って、」
「あぁ、土曜日?大丈夫?」
「うん、大丈夫。」
「どうかしたの?」
「私、こういうの初めてだから、ちょっと心配になっちゃって、絶対行くから」
「そんな喜んでもらえるなんて思ってなかったよ、よかった」
袖を捕まれて、少しうつむいてる彼女は綺麗に見えた。
少し黙ったままの彼女は不思議だった。
「よかったらお昼一緒にたべよぅ」
え?、マジ?
「あ…いいよ」
「うん、じゃあ学食で」
「じゃあ待ってるね。」
あ…どうしよう、耕次振り切らなきゃ…
英語の授業も身に入らない状態だった。
隣の耕次が話しかけてきた。
「土曜日の相手決まった?」
「うん、素子さん」
「なんだって?!」
ガタンと立ち上がる耕次はえらく目立つ。
突然中断された授業はクスクス笑いと共に何事もなく、進んでいった。
「おまえ最近女運いいなぁ」
「人にいえるかよ」
「あははは、よかったなぁ」
「昼休み飯誘われた」
耕次はびっくりして、
「こりゃ一生分の女運使い果たすぞ」
「かもね」
僕は耕次みたいにルックスいいわけじゃない。
それはよくわかっている。
でもいいやつではいたい、そう思っていた。
昼休みはすぐにやってきた。素子さんはもう、学食入り口の自販機の前で待っていた。
二人で学食に入るのが、ちょっと恥ずかしかった。
彼女はバイクに興味あったみたいで、食事の間中バイクの話ばかりしていた。
「竜一さんのバイクってそんな古いの?」
「うん、僕んとこ来たときはボロボロだったから、足周りとかカウルとかは、友達の事故車からもらって改造しちゃった」
「バイクの名前なんだっけ?」
「RG500γ、ガンマでいいよ。ツーリングのとき汚れちゃうからあんまりいいの着てこないでね」
「わかった、私も免許取りたいなぁ」
「紹介するよ」
楽しかった。
以前はずっと緊張していたのに、こんなにくだけて話せるなんて思いもしなかった。
加奈子のこと忘れていた。
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